技の解説 · 手技

掬投受を前へ引き出し、戻ろうとする瞬間に右手を受の両脚の間へ差し入れて掬い上げ、後ろへ落とす基本形、古くからの両手の形、近い技との違い、帯から下の握りの規則と安全

掬投(すくいなげ)は、相手のももを抱えて掬い上げ、後方へ投げる手技です。右組みで受を前へ引き出し、受が元の体勢へ戻ろうとする瞬間に踏み込んで、右手を受の股間の前から差し入れて掬い上げ、受の後ろへ落とす講道館の解説の形を、組んでから投げ終わりまで説明します。両手で両ももを抱える古くからの形、谷落・朽木倒・帯落・肩車との違い、帯から下の握りに関するIJFの規定、後ろへ倒れ込まない安全の条件もまとめます。

正式表記
掬投
分類
投技 · 手技

掬投とは

掬投(すくいなげ)は、講道館の分類で投技のうち手技に入り、手技16本の6番目に置かれている技です。講道館は次のように定義しています。

相手の背後に踏み込み、両手で相手の両ももを前から抱えて後方に崩し、掬い上げて投げる技。また、相手の両脚の間に手を差し入れ、ももを掬い上げて投げる技

定義には二つの形が書かれています。一つは、取が受の後ろ側へ踏み込み、両手で受の両ももを前から抱えて後ろへ崩し、掬い上げる形です。もう一つは、取が受の両脚の間に手を差し入れ、受のももを掬い上げる形です。

IJFも掬投を手技の一つとし、次のように説明しています(編集部訳)。

手技の投げ。相手の側方から、両手で相手のももを前から抱え(または片手を相手の両脚の間に差し入れて臀部を抱え)、相手の体勢を真後ろへ崩し、掬い上げて後方へ投げる。

明治28年制定の旧五教の技に掬投は入っていません。大正9年改正の五教の技では、第四教(隅返、谷落、跳巻込、掬投、移腰、大車、外巻込、浮落)に入っています。講道館の投の形には入っていません。

講道館の解説によると、第3節と第7節で紹介する、受の両脚の間に片手を差し入れる掛け方は、かつては正式な名前がなく、「手内股」「手車」「仏壇返」などの俗称で呼ばれていました。講道館の技研究部は昭和30年(1955年)10月に、これらを技の理合いから掬投の応用技とみることに見解を統一しています。掬投という技名そのものは、それより前の大正9年の五教の技にすでにあります。

左右と役割の約束

  • 取(とり)は技を掛けて投げる人、受(うけ)は投げられる人です。
  • 本記事は、取と受がともに右自然体で組む右組みで説明します。第3節の基本形では、取は受の右側に付き、右手を受の両脚の間に差し入れます。講道館の定義とIJFの説明は、どちらの手を差し入れるかを書いていません。左で掛ける場合は、手足と方向をすべて左右入れ替えて読んでください。
  • 第5節と第7節の、受が仕掛けた技に応じて掬投を掛ける場面でも、掬投を掛ける人を取、先に技を仕掛ける人を受と呼びます。

第3節では、講道館の投技の解説(「講道館柔道・投技 ダイジェスト版」)が「その3」として示す形を、組んでから受が落ちるまでひと続きで説明します。取が引いて受に左足を踏み出させ、受が元の体勢へ戻ろうとする瞬間に、右手を受の両脚の間へ前から差し入れて掬い上げる形です。講道館が「古くから行われている『掬投』の本体」と呼ぶ、両手で両ももを抱える形(「その1」)は第7節で短く紹介し、そのほかの形は同じ節で名前と要点だけを挙げます。

講道館のこの解説は、1990年のビデオと1999年の書籍『講道館投技』をもとにしたダイジェストです。解説の中の「近来」「現在」といった言葉は、その執筆の時点のことを指しています。

IJFの規則は、立ち技で帯から下をどの高さまで握れるかを制限しています(第8節)。

参考動画

KODOKAN(講道館公式YouTube)「掬投 / Sukui-nage」
YouTubeで開く

動きのイメージをつかむための参考動画です。

講道館の公式動画

  • 「掬投 / Sukui-nage」:講道館の公式YouTubeチャンネルの動画です。概要欄によると、講道館とIJFアカデミーによる「100の技」の手技の一本で、講道館の技名称一覧の掬投の項からもこの動画へリンクされています。

IJFのページ

  • IJFの技ページ「sukui-nage 掬投」:IJFによる掬投の説明文(第1節)と技の動画が置かれたページです。大会映像の一覧もあり、そちらはサインインの案内につながっています。
  • 同じページの3Dアニメーション:IJFの技ページに置かれた、掬投の3Dアニメーションです。

近い技の動画(第7節)

  • 「掬投 & 帯落 / Sukui-nage & Obi-otoshi」「掬投 & 朽木倒 / Sukui-nage & Kuchiki-taoshi」:講道館の「技の相違点」の動画です。概要欄に、それぞれ2本の技の講道館の定義が載っています。
  • 「谷落 / Tani-otoshi」:講道館の「100の技」の一本です。掬投との名前の境目は第7節で説明します。

基本の掛け方(右組み)

以下は、講道館の投技の解説が「その3」として示す掬投です。取は受を前へ引き出して止まり、受が元の体勢へ戻ろうとする動きに合わせて受の右側へ入り、右手で受の下半身を掬い上げて、受の後ろへ落とします。取は最後まで立ったまま投げます。

3-1 組む

取と受は、互いに右自然体で組みます。

3-2 右足を退いて受を引き出し、止まる

取は右足を後ろへ退いて、受の体を前隅へ引き崩そうとし、そこで止まります。

引かれた受は、左足を前へ踏み出して踏みとどまります。そのうえで受は、踏み出した左足を退いて、元の安定した体勢へ戻ろうとします。

3-3 受が左足を退いた瞬間に、右足・左足と踏み込む

受が左足を退いた瞬間に、取は腰を落としながら、右足を受の右足の外側へ進めます。続けて左足も深く踏み込み、左自護体になって受の右の体側に近づきます。

動く足は、取の右足、次に取の左足の順です。取は受の正面ではなく、受の右の体側に付きます。

3-4 右手を受の股間の前から差し入れ、臀部を抱える

受の右の体側に近づくのと同時に、取は右手を受の股間に前から深く差し入れ、受の臀部を抱えます。講道館の定義の言葉では、受の両脚の間に手を差し入れて、ももを掬い上げる形です。

3-5 左手を引き下げ、右手で掬い上げて受の後ろへ落とす

取は左手を下へ引き、右手で受の下半身を掬い上げて、受をその後ろへ落とします。

3-6 安全のために

取は立った姿勢のまま掬い上げ、立ったまま受を後ろへ落とします。この形では、掬い上げた受を抱えたまま、取が真後ろへ倒れ込まないようにします。受を担ぎ上げて真後ろへ飛び込んではいけません。

受の後ろへ回り込んで体を真後ろへ捨てて投げ落とした場合は、講道館の技名の区別では掬投ではなく谷落(横捨身技)になります。相手を担ぎ上げて真後ろに飛び込む行為は、全日本柔道連盟によるIJFの規則の説明(2025年)で、IJFの規則で行う試合では反則負けとされています。この説明が例に挙げているのは肩車で、掬投の名前はありません。説明の言葉は第8節で示します。年少者の試合の制限は国によって違い、掬投を名指しした規程は見つかっていません(第8節)。

成否を分けるポイント

手順は第3節のとおりです。ここでは、掬投として受を投げ切れるかを左右する点を説明します。「確かめ方」は編集部の提案です。

受が戻ろうとする瞬間に入る

取が入るのは、引き出されて左足を踏み出した受が、その左足を退いて元の体勢へ戻ろうとした瞬間です(第3節3-2・3-3)。講道館の解説の「その1」(第7節)も、引き出された受が戻ろうとする動きに合わせて入る形で、受の戻る動きを使う点は共通しています。

確かめ方:ゆっくりした動きで、取が止まったあと受の左足が前へ出て、その左足が退き始めたところで取の右足が動き出しているかを横から見ます。

右足で受の外側へ、左足で深く入り、受の右の体側に付く

右手は、受の右の体側に付いたときに差し入れます。踏み込みが終わってから手を伸ばすのではなく、二歩目の踏み込みと手の差し入れを一つの動きにします(第3節3-3・3-4)。

確かめ方:右手を差し入れたところで止め、取の腰が落ちているか、取が受の正面ではなく右の体側にいるかを見ます。

受の両足が上がるように掬い上げる

講道館は、朽木倒と掬投の違いを、取が片手で抱える部位ではなく、取の片手の働きで判断するとしています。受を押し倒して受の片足が上がって倒れれば朽木倒、受を掬い上げて受の両足が上がって崩れれば掬投です。第3節3-5のとおり、取は左手を下へ引き、右手で受の下半身を掬い上げます。

確かめ方:受の協力のもとでゆっくり行い、掬い上げたときに受の両足が畳から上がっているか、片足が残ったまま押し倒す形になっていないかを見ます。

立ったまま、受の後ろへ落とす

落とす向きは受の後ろです。取が体を後ろへ捨てずに立ったまま落とすことが、掬投と谷落を分けます(第3節3-6)。

確かめ方:投げ終わりで、取が立った姿勢を保っているかを見ます。

狙う場面

第3節の形は、取が右足を退いて受に左足を踏み出させ、受が戻ろうとする機会を自分で作る掛け方です。

講道館の解説は、ほかの形や応用の掬投の機会として、次の場面も挙げています。どれも第3節とは別の形で、第3節の形の時機に当てはめるものではありません(形の要点は第7節)。

  • 受が右払腰を掛けようとして、右足を取の両足の前へ踏み込み、右半身になった瞬間。解説は「その一瞬を逃がさない鋭い勘が必要です」としています。
  • 組みぎわに、取が受の両手首を抑えていて、受が右足を前へ出して押し返してきた瞬間。
  • 受が右手を取の後ろ襟に持ち替え、右足を前にした極端な右構えで、技を掛けようと近づいてきた一瞬。
  • 受が仕掛けた内股・払腰(跳腰・釣込腰なども)・大外刈に応じるとき、受の内股をかわしたとき。
  • 取の肩車を、受が上体を後ろへ反らせて防いだとき。

このように、掬投には受の技に応じて掛ける使い方が多くあります。1988年の学会発表でも、二人の著者が自分の体得した技術として、掬投(手車)を「後の先」の技として扱っています。

講道館の解説は、受の両脚の間に片手を差し入れる形(第3節の形と第7節の「その2」)について、「近来の乱取技として流行し、多く活用されています」と書いています。これは1990年・1999年の解説の執筆時点の記述です。その後、IJFの規則で帯から下を手や腕で攻める動作の扱いが何度も変わっているため(第8節)、今の乱取りや試合でどのくらい使われているかを示すものではありません。

よくある失敗と直し方

この節の症状・見分け方・直し方は編集部の提案です。原因のうち「編集部の見立て」と記したものも、編集部の判断です。

入りが遅れ、受が元の体勢に戻ってしまう

  • 症状:取が右足・左足と踏み込んだときには、受がすでに左足を退ききって、両足で安定して立っている。
  • 原因:第3節の形は、受が戻ろうとして左足を退く瞬間に入る掛け方です。この瞬間を過ぎると、受は元の安定した体勢に戻っています(編集部の見立て)。
  • 見分け方:横から見て、取の右足が動き出すのが、受の左足が退き始めたときか、退き終わってからかを見ます。
  • 直し方:第9節9-3の1の練習を、受の左足が退き始めたところで取の右足が動き出すことに絞って繰り返します。

受の片足が残り、押し倒す形になる

  • 症状:取が右手で受を抱えたあと、受の片足が畳に残ったまま、受が後ろへ押し倒される。
  • 原因:取の右手が受の下半身を掬い上げずに、受を押す働きになっています(編集部の見立て)。講道館の解説には、片脚に手を掛けたときは押し倒す働きに、片手を股間に深く差し入れたときは掬い上げる働きになることが多い、という説明があります。
  • 見分け方:受の協力のもとで、掬い上げた瞬間に受の両足が畳から離れているかを見ます。
  • 直し方:第3節3-5の、左手を下へ引く動きと右手で掬い上げる動きを、受を落とさずに止めた形でゆっくり確かめてから、投げにつなげます。

変化・関連技・返し技

古くからの形(その1):両手で受の両ももを抱える

講道館の解説は、両手で受の両ももを抱えるこの形を「古くから行われている『掬投』の本体」としています。第3節の形と共通するのは、右自然体で組むこと、引き出された受が戻ろうとする動きに合わせて入ること、受を後ろへ落とすことです。第3節と違う、この形に固有の点は次のとおりです。

  • 引き出し方:取は右足・左足・右足と3歩退いて受を前へ引き崩そうとして止まり、左自護体になりながら両手で受の上体を下へ抑えつけます。受は左足・右足・左足と踏み出して踏みとどまり、元へ戻ろうとします。取が両手の引きを緩め、受が上体を起こしながら左足を退き始める、その一瞬早く取は入ります。
  • 受の後ろへ回る:取は体を沈めながら右足を受の右足の外側へ踏み込み、右足を軸に体を右へ開いて、受の横から後ろ(側背)へ回ります。取の左足は、受の左足のかかとの内側の後ろへ踏み込みます。
  • 両手で両ももの後ろを抱える:取は左手を受の左ももの後ろに、右手を受の右ももの後ろに当て、両手で受の下半身を深く抱えます。
  • 密着してあふり上げる:取は左の前腰を受の右の臀部に当てて密着させ、受の臀部を取の左ももの上に乗せます。腰を突き出し、上体を後ろへ反らせて受をあふり上げ、両手で受の両脚を掬い上げて、体を左に捻りながら受を後方へ振り落とします。

講道館の解説は、この形について「現在、乱取では全くみられなくなりました」と書き、その理由を、自護体の組み方から自然体の組み方へ乱取りが変わり、取が受の側背へ回り込んで両手で両脚を抱えることが難しくなったためだろう、と推測しています。これも解説の執筆時点の記述です。

講道館の解説にあるほかの形(名前と要点だけ)

細かな手順は省き、場面と手の使い方の要点だけを挙げます。

  • 股間の後ろから左手を差し入れる形(その2):第5節の三つ目の場面で、取は左足を受の背後へ踏み込み、左手を受の股間に後ろから差し入れて臀部を抱え、掬い上げて落とします。第3節の形とは、差し入れる手(左手)と差し入れる向き(後ろから)が違います。講道館の解説は、受の抵抗が強いときに覆いかぶさって投げ落とす場合もある、としています。
  • 受の技に応じる形:受が仕掛けた内股・払腰(跳腰・釣込腰なども)・大外刈に応じる形や、受の内股をかわして掛ける形です。講道館の技研究部会は、掬い上げた受を取の左腰に移して投げた場合も、「掬い上げ」が主な働きなので掬投とみています。
  • 受の大外刈に応じる形(その3の応用):受の大外刈に、取は右足を大きく退いて左自護体で防ぎ、右手を受の股間に前から差し入れて臀部を抱え、左手を下へ引いて受を後方へ落とします。
  • 肩車からの変化:取の肩車を受が上体を後ろへ反らせて防いだとき、取は向き直って左足を受の右足の外側へ踏み込み、右足を寄せて左自護体になり、右手で受の臀部を掬い上げて後方へ落とします。担ぎ上げた受を左側方・前方・後方のいずれかへ投げ落とした場合は、掬投ではなく肩車とされます。
  • 後ろ帯と下穿を握る形(その4):受が前かがみの姿勢で防いでいるときに、取が受の後ろ帯と下穿を握って掛ける形で、講道館の解説は掬投の応用として紹介しています。

近い技との違い

技講道館の定義掬投との違い
谷落相手を後方に崩し、左脚を相手の後方へ滑り込ませ、体を左向きに捨て、引き落として投げる技(横捨身技)「その1」と同じように受の後ろへ回り込み、取の左足を受の左足のかかとの後ろに当てて密着し、左手を受の左脇の下に深く差し込んで押し上げ、体を真後ろへ捨てて投げ落とせば谷落、立ち姿勢のまま投げ落とせば掬投とされる
朽木倒片手で相手の片脚を内側又は外側から取って引き上げ、後方へ押し落として投げる技片手で抱える部位の違いではなく、押し倒したか(受の片足が上がって倒れる)、掬い上げたか(受の両足が上がって崩れる)で判断する(第4節)
帯落右手で相手の前帯を取り、引きつけて右背後に踏み込み、左手で前から相手の腰を抱えて後方に崩し、掬い上げ、落として投げる技帯落は片手で前帯を握り、もう一方の手で腰を抱えて掬い上げる。両手で腰の後ろを抱える掬投(その1)と手の使い方は違うが、掬い上げて落とす考え方は同じで、帯落は「帯を使う掬投」と考えられる、という説明がある
双手刈両手で相手の両脚を外側から抱え、刈って投げる技両手で受を抱え上げて前へ投げ落とした場合は掬投とし、抱え上げたかどうかで技名を判断する、という説明がある
肩車相手を前方に崩し、右手で相手の右ももを内側から抱え、右肩から頸の後ろと左肩に担ぎ上げて投げる技肩車を防がれたときの変化先の一つが掬投(上の「肩車からの変化」)。担ぎ上げた受を左側方・前方・後方のいずれかへ投げ落とした場合は肩車とされる

返し技・防ぎ方

講道館の返し技の一覧には、「掬投返」という名前の技はありません。掬投への返し技と、掬投を防ぐ方法は、確認できていません。

競技規則での扱い

掬投の規則上の扱いは、大会の種類と選手の年齢によって違います。規則を定める主体と、適用される範囲を分けて説明します。

IJFの規定(スポーツ・組織規程、2026年7月24日版)

  • 掬投は規程の技名一覧に手技の6番として載っています。IJFの大会で認められない講道館の技(河津掛・蟹挟・胴絞・足緘)には入っていません。IJFの技ページでも、掬投は禁止の技として扱われていません。
  • 通常の組み方は、帯より上の袖・襟・胸・肩の上・背中を握るものです。帯を握るような標準的でない組み方は、積極的に攻める態度で使う場合に認められます(第18.1.2条第7項)。
  • 帯から下の握りは、第18.1.2条第8項で次のように定められています(本記事の訳)。

上衣のすべての握りと、帯から下を内股の上部の高さまで握ることは認められる。ただし、上衣の握りや、帯から下を内股の上部の高さまで握る握りを消極的に使った場合は、指導とする。手や腕で脚を引っ掛けること、脚を取ること、下穿きを握ること、内股の上部から下で脚に触れることは禁止され、指導とする。

  • 第18.1.2条第19項は、手や腕で相手の脚を取る、下穿きを握る、相手の脚を止める、押すことを指導の対象とし、「脚を握れるのは、両者が明らかに寝技の状態にあり、立ち技の動作が止まっているときだけである」としています(本記事の訳)。
  • 指導は2回までが警告で、3回目は反則負けになります(第18.1条)。
  • 相手を危険にさらす、またはけがをさせるおそれのある動作、特に首や脊椎に対する動作は反則負けです(第18.2.2条第7項a)。
  • 15歳未満の選手は、IJFの公式大会に出場できません(第2.3条)。

規程が掬投の名前を出しているのは技名一覧だけで、組み方と罰則の条文には掬投の名前がありません。IJFが2024年12月13日に新しい規則を紹介した記事も、上の第8項と同じ文を載せていますが、脚取りに関わる技として掬投を挙げてはいません。第3節の、右手を受の股間に前から差し入れて臀部を抱える握りや、第7節の、両手で受の両ももの後ろを抱える形が、「内股の上部の高さまで」の握りに当たるのか、それより下の脚取りや下穿きの握りに当たるのかは、条文にも、全日本柔道連盟による変更点の説明にも書かれていません。全日本柔道連盟の説明は、この高さを「内股上部(両脚の付け根の水平のライン)」と言い表しています。

全日本柔道連盟による規則の説明(後ろへの飛び込み)

全日本柔道連盟の審判委員会は、2025年からのIJFの規則の変更点の説明で、「真正面・真後に飛び込む」ことについて次のように書いています。

ユージングザヘッド(通称)は認められるが、従来通り内股、袖釣込腰等で真正面に飛び込む、あるいは肩車等で相手を担ぎ上げて真後ろに飛び込む行為は、ダイビング(通称)として「反則負け」が与えられる

同じ説明は、「ダイビング(通称)は、頭部と両肩が着地した場合とし、頭部と片方の肩が着いた場合はダイビング(通称)としない」としています。例に挙がっているのは肩車で、掬投の名前はありません。これは全日本柔道連盟の説明の文で、IJFの条文の文ではありません。IJFの規程で頭から突っ込む技を反則負けとする条文(第18.2.1条)が書いているのは、前方へ体を曲げる動作です。第3節3-6の、真後ろへ飛び込まないという条件は、全日本柔道連盟のこの説明にもとづいています。

脚を持つことの規則の移り変わり

IJFの規則では、立ち技で帯から下を手や腕で攻めることの扱いが、時期によって大きく変わってきました。2010年前後の改正はIJFの原文を確認できておらず、研究の記述によるものです。それによれば、2009年に攻撃・防御の中で直接下穿きを握ることが軽微な違反として指導になり、2010年には立ち姿勢で相手の帯より下へ手や腕で直接攻撃・防御することが重大な違反として反則負けになりました。IJFの資料で確かめられる範囲では、2014〜2016年の規則で立ち技の帯より下への手や腕による攻撃・防御はすべて反則負け、2017年の試行期間は脚取りと下穿き取りが1回目は指導・2回目は反則負け、2018〜2024年は毎回指導(3回目で反則負け)でした。2025年からは、上のとおり内股の上部の高さまでの握りが認められています。

日本の中学生以下の試合(少年大会試合審判規程)

日本国内の中学生以下の試合は、IJFの規定に則って行い、安全面を考えて全日本柔道連盟の少年大会試合審判規程を加えて行います(2026年4月1日施行の版)。規程の前文は「国内における少年(中学生以下)の試合は、国際柔道連盟試合審判規程に則って行う。ただし、安全面を考慮し、本規程を加えて行うものとする。」です。上のIJFの帯から下の握りの規定も、中学生以下の試合に及びます。

この規程の禁止事項と附則に、掬投の名前は出てきません。関わりうる一般の項目は次のとおりです。規程は、掬投のどの形がこれらに当たるかを書いていません。

  • 指導⑨は「相手の上衣の袖の中、又は下穿きの裾の中に指を入れて握ること。」です。
  • 指導⑩は「立ち姿勢で標準的ではない組み方(片襟持ち[通称:クロスグリップ]、帯、または帯から下の部位〔内股上部:両脚の付け根の水平ラインまで〕を握ること)で、直ちに技を施さないこと。標準的ではない組み方を繰り返した場合は、攻撃をしても反則とする。」です。

海外の年少者向けの規則

イギリス:イギリスの柔道連盟(BJA)の、年少・初心者向けの技術制限の2026年改訂(2026年7月6日施行)は、次のカテゴリーを対象にしています(編集部訳)。

学校の4・5・6・7学年(段級を問わず)。スコットランドのP5・P6・P7・S1。12歳未満のすべてのカテゴリー(段級を問わず)。16歳未満のすべてのカテゴリーのうち、黄帯以下。

この改訂に、掬投の名前や脚取りを扱う項目はありません。関わりうるのは、捨身技を禁じる次の1.5です(編集部訳)。

1.5 捨身技の禁止:取は捨身技を施してはならない。これには、巴投、隅返、浮技、横落、谷落、裏投、巻込などの技が含まれる。注:取が立ったままでいる後方への持ち上げ技は認められ、後腰などの技を施すことができる。

この注が、取が立ったまま受を掬い上げて後ろへ落とす掬投に当たるかどうかは書かれていません。

カナダ:カナダ柔道連盟の大会規程(Sanctioning Policy & Tournament Standards 2026-2027)にも、掬投の名前や脚取りの項目はありません。U8(2026/27年シーズンは2020年以降の生まれ)・U10(2018〜2019年生まれ)・U12(2016〜2017年生まれ)の区分には、柔道衣の前側を握る組み方だけを認める規定(背中越しに肩や腰の後ろを握る組み方は、すぐに続けて攻める場合に限って認める)がありますが、これは柔道衣の握りの規定で、脚や臀部を抱える動作に当たるかは書かれていません。U8〜U12のすべての段級とU14(2014〜2015年生まれ)のNovice区分で捨身技と巻込技が禁じられていますが、掬投は名指しされていません。U8については、連盟公認の大会では、正式な判定のない「柔道フェスティバル」の形式が推奨され、クラブ内では、形式を変えた試合が認められています。年齢は、シーズンの2年目の12月31日時点で数えます。

フランス:フランス柔道連盟の2026–2027年シーズンの大会規程にも、年少者の脚取りや帯から下の握りの項目と、掬投の名前は見当たりません。

これらはそれぞれの国の連盟の規定で、IJFや日本の規則ではありません。出場する大会でどの規則が使われるかは大会の要項で確かめ、扱いが分からない場合は審判・主催者に確かめてください。

習得の順序と安全

9-1 どの段階で学ぶか

講道館の昇段試験用テキストでは、掬投の項に「三段」と添えられています。文部科学省の『柔道指導の手引』は、巻末の技名称の表などに掬投の名前を載せているだけです。

海外の連盟の審査では、掬投の置かれる段階が大きく違います。

国段階扱い
ドイツ初段〜三段の技のまとまり柔道の遺産に属し、練習されることが少ないものもあるが、少なくとも近年は試合でときどき使われてきた、また使われている技を集めたまとまりで、三段までに学ぶものとされる(2022年の暫定の表)
フランス三段段位審査の技表の手技
イタリア三段五教の第4グループの手技の一つ
スペイン四段の課程説明だけでなく実技で行う技
ブラジル2級(紫帯)五教の第四教の技をすべて示すとされている。技名は書かれていないが、第四教には掬投が入っているので、掬投も含まれると読める
カナダ初段の審査カナダ柔道連盟の全国審査課程(2021年)について、ブリティッシュコロンビア州の連盟の審査委員会が作った参照表で、初段の審査の技。技名に「禁止」(編集部訳)の注記があり、表は2020年7月版のIJFの規程を参照している

カナダの参照表が参照する2020年7月版の規程は、脚取りが毎回指導とされていた時期(第8節)のもので、この注記は現行の規則の説明ではありません。イギリスとオーストリアの連盟の級の審査表、ロシアの連盟の級の規程、ドイツの連盟の級の要件には、掬投の名前は見当たりません。

9-2 受身と練習の形

掬投で受がとる受身の種類は資料に見当たらないため、以下は投げ技全般についての説明です。

投げ技の受身の練習では、取が引き手を保持し、受も自分の釣り手を離さずに自分から受身をとります。文部科学省の『柔道指導の手引』は、この取と受の結び付きを初歩の段階から「命綱」として意識させることが大切だとしています。

9-3 段階的な練習

以下の組み立ては編集部の提案です。回数や期間で区切らず、取と受が各段階で安定してできるかを指導者が確かめてから進みます。

  1. 入りまでをゆっくり繰り返す:投げずに、第3節3-2から3-4(右足を退いて止まる・受の戻りに合わせて右足と左足で踏み込む・右手を差し入れる)までを、受の協力のもとでゆっくり繰り返し、第4節の確かめ方で形を確かめます。
  2. 掬い上げて落とす:受が投げ技の受身に慣れていることを指導者が確かめてから、受の協力のもとで、取は立ったまま受を掬い上げ、後ろへ落とします。
  3. 受の技に応じる形へ広げる:第3節の形が安定してから、第7節の受の技に応じる形に取り組みます。細かな手順は本記事では省いているので、指導者と確かめながら進めます。
  4. 大会の規則を確かめる:試合や乱取りで使う前に、出場する大会の帯から下の握りの規則と、年少者の制限を確かめます(第8節)。

9-4 安全上の注意

  • 立ったまま落とし、真後ろへ倒れ込まない:第3節3-6のとおりです。
  • 引き手を保持する:取は引き手を保持し、受が受身をとれるようにします(9-2、投げ技一般)。

試合での使われ方

IJFの技ページには、2018年から2023年のグランドスラム・グランプリ・世界選手権などの10大会で、掬投が記録された大会映像の一覧が載っています。一覧の数は少なく、使われる頻度の統計ではありません。どの形(両手で両ももを抱えるか、片手を両脚の間に差し入れるか)で掛けたかもページからは分かりません。同じページの「掬投をよく使う選手」の欄には、選手の名前が載っていません。

研究には、次のような報告があります。どれも帯から下の攻撃の扱いが今と違った時期の、対象の限られた観察です。

  • 1999年のヨーロッパの4大会で日本人男子選手が敗れた試合を調べた研究は、外国人選手の特徴として、朽木倒・大内刈・隅返・谷落・掬投・肩車などを挙げています(2001年発表)。
  • 2022年の論文は、2009年の世界選手権を分析した報告を引いて、男女とも得点を挙げた技の中で掬投の割合が最も多く、相手の技を返す使い方ができるため、脚を取る技を得意とする選手がこの技を集中的に使った可能性がある、と紹介しています。もとの報告は雑誌の記事で、本記事では確認していません。
  • 2009年と2010年の大会の男子の試合を比べた学会発表(抄録)は、2010年前後の規則改正のあと、反則が例外的に認められる組み手(クロスガードの組み手)への攻撃で、掬投の施技数が有意に増えたと報告し、掬投はクロスガードの組み手への攻撃によって規則に対応した、とまとめています。

出典

本文で説明した内容の出典を、節ごとにまとめます(確認日はいずれも2026年10月23日。スペインの柔道連盟の規程は、同じ発行元のURLから2026年10月20日に取得されたファイルで読み、2026年10月23日に連盟のサイトのファイルと同一であることを確認しました)。第3節の基本形は講道館の日本語の解説にもとづいています。講道館の英語の解説(Kodokan「Sukui-Nage (hand technique)」)は同じ構成ですが、足の運びの一部の省略や結びの段落の言い回しなど、日本語の解説と一致しない箇所があるため、本記事は日本語の解説に従いました。

第1節 掬投とは

第2節 参考動画

  • 講道館の技名称一覧から掬投の動画へのリンク:講道館「柔道 技名称一覧」(上記)
  • IJFの技ページの説明文・技の動画・3Dアニメーション・大会映像の一覧:International Judo Federation「sukui-nage 掬投」(上記)、同ページの3Dアニメーション https://judo.ijf.org/techniques/Sukui-nage/animation
  • 各動画の題名・公開元・概要欄:下の「参考動画」

第3節 基本の掛け方

  • 互いに右自然体で組む、取が右足を退いて前隅へ引き崩そうとして止まる、受が左足を踏み出して踏みとどまり左足を退いて元の安定した体勢へ戻ろうとする、受が左足を退いた瞬間に取が腰を落としながら右足を受の右足外側へ・左足を深く踏み込み左自護体で受の右体側に近づく、同時に右手を受の股間の前から深く差し入れ臀部を抱える、左手を下方へ引き右手で下半身を掬い上げ受の後方へ落とす:講道館「掬投(すくいなげ)<手技>」(上記)(その3)
  • 両脚の間に手を差し入れ、ももを掬い上げる:講道館「柔道 技名称一覧」(上記)
  • 体を真後ろへ捨てれば谷落、立ち姿勢のまま投げ落とせば掬投:講道館「掬投(すくいなげ)<手技>」(上記)(その1)
  • 担ぎ上げて真後ろに飛び込む行為の扱い:第8節の全日本柔道連盟の変更点の説明 p.6
  • 年少者の規程:第8節の出典
  • 安全の条件の組み立て:編集部(上記資料にもとづく)

第4節 成否を分けるポイント

第5節 狙う場面

  • 払腰の機先・組みぎわ・極端な右構え・内股・払腰(跳腰・釣込腰等)・大外刈への応じ・内股をかわして・肩車を防がれたとき、「近来の乱取技として流行し、多く活用されています」:講道館「掬投(すくいなげ)<手技>」(上記)
  • 執筆時点(1990年のビデオ・1999年の書籍):講道館「はじめに」(上記)
  • 掬投(手車)を後の先の技として扱う:重岡孝文・西田孝宏「掬い投(手車)の崩しと掛けにおける一考察」武道学研究 21(2): 111–112, 1988(学会発表) https://doi.org/10.11214/budo1968.21.2_111

第6節 よくある失敗と直し方

  • 受が左足を退いて元の安定した体勢へ戻ろうとする瞬間に入る:講道館「掬投(すくいなげ)<手技>」(上記)(その3)
  • 片脚に手を掛けたときは押し倒す働きに、片手を股間に深く差し入れたときは掬い上げる働きになることが多いという説明:講道館「朽木倒(くちきたおし)<手技>」(上記)(その3)
  • 症状の名前・見分け方、編集部の見立てとした原因、直し方の練習:編集部(上記資料にもとづく)

第7節 変化・関連技・返し技

  • その1(3歩退いて抑えつける、受の側背へ回る、左足を受の左足かかと内側の後ろへ、両手で両股の後ろ、左前腰を右臀部に当てて密着、あふり上げ、左に捻って振り落とす、「本体」、「現在、乱取では全くみられなくなりました」とその理由の推測)、その2とその応用(覆いかぶさる場合、技研究部会の見解)、その3の応用(大外刈、肩車からの変化と肩車との境界)、その4(後ろ帯と下穿、掬投の応用として紹介)、谷落との境界:講道館「掬投(すくいなげ)<手技>」(上記)
  • 谷落・朽木倒・帯落・双手刈・肩車の定義、返し技の一覧に掬投返がないこと:講道館「柔道 技名称一覧」(上記)
  • 朽木倒との区別:講道館「朽木倒(くちきたおし)<手技>」(上記)
  • 帯落は帯を使う掬投と考えられる:Kodokan「Obi-Otoshi」 https://kdkjudo.org/en/techniques/obi-otoshi/
  • 双手刈との区別(抱え上げて前へ投げ落とせば掬投):Kodokan「Morote-Gari」 https://kdkjudo.org/en/techniques/morote-gari/

第8節 競技規則での扱い

第9節 習得の順序と安全

第10節 試合での使われ方

  • 大会映像の一覧と選手の欄:International Judo Federation「sukui-nage 掬投」(上記)
  • 1999年のヨーロッパの大会の分析:菅波盛雄・廣瀬伸良・中村充・前川直也「日本人男子柔道選手の欧州大会における敗退要因について」武道学研究 34(2): 13–21, 2001 https://doi.org/10.11214/budo1968.34.2_13
  • 2009年の世界選手権の報告の紹介:三宅恵介・竹澤稔裕・伊藤潔・佐藤伸一郎・廣瀬伸良「柔道競技におけるスコア獲得に有効な投技の戦術行動」武道学研究 54(2): 103–113, 2022 https://doi.org/10.11214/budo.2110 (引用元:中村勇による2009年世界選手権の報告、『近代柔道』31(11), 2009。未確認。この論文は同じ引用に序論と考察で別の文献番号を付けています)
  • クロスガードの組み手への攻撃での掬投の増加:伊藤潔ほか(2012、上記)

参考動画

講道館

IJF